大都市を中心に多く存在する築浅の高層ビルのほとんどはハイグレードビルと呼ばれる物件です。
オシャレで、セキュリティをはじめとした設備がしっかりしていて、人気も高いのですが、原状回復費も高いです。
今回の事例は、こうしたハイグレードビルからのオフィス退去の案件です。
どうしてハイグレードビルの原状回復費が高いのかも併せてご紹介しています。
賃借人の概要

テナント | 東京都渋谷区 MFPRビル 1階235.67㎡/71.29坪 3階688.84㎡/208.37坪 合計924.51㎡/279.66坪 |
クライアント | 株式会社アスマーク |
用途 | オフィス《事務所》 |
明渡し日 | 2018年12月31日 |
賃貸人の概要
大手金融機関。大手不動産系列の企業がPMを務め、大手ゼネコンが原状回復の指定業者
ビルオーナー | 三井住友信託銀行 |
PM | 三井不動産ビルマネジメント |
原状回復元請業者 | 大成建設株式会社 渋谷CSセンター |
株式会社アスマークにもたらされた驚きの原状回復費見積もり
株式会社アスマークは業務拡大のため、当時2つのフロアーにまたがっていたオフィスをワンフロアー賃借によってまとめ、社内コミュニケーションの向上を目的としてオフィス移転することにしました。
東京23区内にあるビルで、築浅だったこともあり、原状回復も高額が予想されました。株式会社アスマークがオーナー側に退去の意向を伝え、見積もりの概算をしてもらうと3900万円という回答でした。
本見積もりの額は3750万円でしたが、それでも高額です。そこで株式会社アスマークは自社の移転プロジェクトのPMを担当していたB社に相談したところ、RCAA協会を紹介されました。
概算見積 | 39,000,000円 |
初回見積 | 37,500,000円 |
再見積 | 35,600,000円 |
再々見積 | 32,000,000円 |
合意金額 | 28,000,000円 |
査定額 | 25,000,000~27,000,000円 |
削減額 | 11,000,000円 |
削減率 | 28.2% |
※全て税別
※【査定者】一般社団法人RCAA協会会員「株式会社スリーエー・コーポレーション」にて査定
RCAA協会を選んだ理由
株式会社アスマークが当協会を選んだのは以下の3つの理由からでした。
- 査定書の信憑性
- 担当者の法的知識、経験に信頼がおけること
- 遅延損害金への対応が明確であったこと
ひとつずつ解説いたします。
査定書の信憑性
当協会会員である株式会社スリーエー・コーポレーション(3AC)が提示した原状回復の査定金額は2500~2700万円でした。
この査定書の内容は、賃貸借契約書に約されている原状回復の内容を全て網羅しており、費用積算の根拠が材料、労務、現場管理、会社経費などセグメントに分別され、国交省の労務基準単価に基づき算出されていました。
株式会社アスマークの担当者はこうした精緻な査定書からRCAA協会は信憑性が高かいと判断したのです。
担当者の法的知識、経験に信頼がおけること
株式会社アスマークの担当者と、当協会会員の担当者が打ち合わせした際、査定の根拠説明が非常に丁寧かつ明瞭でした。
具体的には、借地借家法、建築基準法、ビル管理法に基づいた合理的なエビデンスに立脚していること、そしてこれまでの経験も交え、株式会社アスマーク担当者にも分かりやすく説明したのです。
原状回復費の交渉ではオーナー側とトラブルになることも少なくないと聞いていた株式会社アスマーク担当者は、RCAA協会会員は信頼のできる専門家であると評価しました。
遅延損害金への対応が明確であったこと
実は、本案件は明渡し期日までの時間が厳しく、ビル側業者と折り合いがつかない場合、賃料、共益費の倍額相当額の損害金が請求されるという賃貸借契約内容でした。
したがって、明渡し遅延の対応をどうするかは大きなリスクを伴っていたのです。
エビデンスを提示して交渉を行っても、オーナー側の回答の遅れ、無回答などを株式会社アスマークは心配していました。
しかし当協会では、そうした場合は損害金の対象にならず、心配は皆無であると説明しました。
その裏付けとして、東京地裁、大阪地裁の判例も提示したのです。
そうしたエビデンスもあったので、RCAA協会は「業務受託後に万が一損害金が発生した場合、全て協会サイドが補填する」という文面をアドバイザリー契約書に記しました。
こうして株式会社アスマークは懸念されていたリスクに対しても安心することができたわけです。
査定者とお客様の声
査定者コメント
実際の原状回復費はどうなったのか?費用の変遷と合意
協会会員スリーエーコーポレーションの萩原です。今回、提出した査定額は2500~2700万円です。初回の見積もりからおよそ1000万円も減額が可能という判断でした。では、株式会社アスマークの実際の原状回復費はどうなったのでしょうか。経緯を順番に見ていきましょう。
本件の原状回復は、賃貸借契約書に約されている原状変更工事(入居工事)、明渡し(原状回復工事)もすべてビルオーナーの指定以外施工不可という厳しい契約でした。 また築浅のハイグレードビルのため、当然原状回復費用は高く、特に電気その他設備工事が割高でした。 Aグレード、スーパーグレードとも呼ばれる所謂ハイグレードビルは、ビル管理、共用部、デザインなど全てが充実し、使い勝手も良く、ビル管理においても申し分がありません。
しかし問題は、原状回復工事におけるB工事の高額費用と施工範囲が不透明なことです。
例えば、ハイグレードビルはインテリジェント化しており、全ての電気、防災、空調その他設備が中央管理室とネットワークで繋がっています。また自動制御(セーフオートメーション)しているため、工事は貸室内にとどまらず、中央管理室の工事及びデータ書替えなどのソフト工事も発生します。このため、費用が極めて高額になるわけです。
したがって、多少知識がある程度では見積もりの分析が難しくなってきているのです。 こうした事実を、多くのテナント側の移転工事PM企業も理解していません。結果として見積内容の分析がプロでも難しい状況になってきているのです。
当協会では、こうした状況にも対応できるノウハウがあります。 このほか、労務単価を国交省指導の基準単価に値引きさせるといった算出を行います。すると、本案件のB工事においては、約50%の値引きが可能でした。 こうしたエビデンスを使って再見積もりを依頼したところ、3560万円という金額が提示されました。 初回見積もりが3750万円だったので、下がることは下がりましたが、協会の査定とはかけ離れたものです。
そこで、さらに原状回復の範囲をチェックしたところ、原状回復工事を経た後も残すと思われる1階の区画壁と積算数量の一部誤りなどに気付きました。 これについて質疑をあげた結果、3200万円まで見積額が下がりました。 この回答に対し、提示された額であっても、当該ビル付近のエリア、同グレードビルと比べ、割高であることの資料(エビデンス)を提示した結果、2800万円という金額提示までこぎつけたのです。 紛争も辞さない姿勢を貫けば、さらに200~300万円の値下げをすることも可能でしたが、当初より株式会社アスマークの意向として、紛争まではしないという方針になっていました。 したがって2800万円の最終回答で合意の運びとなりました。
査定員 萩原大巳

一般社団法人RCAA協会 理事長
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO
- ワークプレイスストラテジスト
- ファシリティプロジェクトマネージャー
株式会社アスマークからいただいたコメント
専門技術が高く、法律事務があり大変な案件だったと思いますが、1000万円近い値下げをしていただき、ほんとうにありがとうございました。
株式会社アスマークのオフィス移転責任者 社長室長 F氏
まとめ
ハイグレードビルでは原状回復費が必然的に高額になります。しかし、大半の案件では適正査定を行えば、費用を圧縮する余地は十分に残されています。
確たるエビデンスがあれば、値下げは可能であるといえるでしょう。原状回復費が高額な分、値下げ額も高額になるので、ぜひ相談してもらいたいと思います。