ビルオーナーが変わり、新オーナーが契約内容などを把握していないと、賃借人に不利な原状回復を求められてしまうことがあります。
確認をとってもなしのつぶての場合、どうすればいいのでしょうか。
賃借人の概要
賃借人 | 株式会社バリューデザイン |
テナント | 東京都中央区 CCICビル 5・6階196.54㎡/59.45坪 ×2 |
賃貸人の概要
海外に母体がある貿易関係企業。PM(賃貸経営管理業務)、BM(ビル管理運営)および原状回復の指定業者は総合的な建物管理を提供している大手グループ会社。
実績
初回見積 | 5,340,000円 |
再見積 | 4,940,000円 |
合意金額(原状回復金銭見合合意) | 3,500,000円 |
削減額 | 1,840,000円 |
削減率 | 34.45% |
※全て税別
原状回復工事がバリューアップ工事に!?問い合わせてもゼロ回答
バリューデザイン社は活気あるベンチャー企業で、現在は大手銀行との取引があり、上場も果たしています。今回のオフィス移転は拡大移転で、高グレードのビルへ移転するにあたり、旧オフィスを原状回復することになりました。
普通の原状回復事例と少し違ったところは、バリューデザイン社が入居していたビルのオーナーが、同社入居時から変わっているということです。当然ながら、賃借人の権利と義務はそのまま承継されており、バリューデザイン社は前賃貸借契約書に記されている原状回復義務を承継していました。
ところが、新しいオーナーである賃貸人も、PM・BMを担当している会社も、当時の賃借した状況や事情を何も分かっていない状態だったのです。そのため、バリューデザイン社が原状回復の見積もりを依頼すると、返ってきた見積もり金額は534万円(税別)で、内容的にビルオーナーに都合のよいバリューアップ工事(本来すべき工事よりも品質が高い工事)の疑いがありました。
明け渡しまで時間的にもゆとりがあったため、バリューデザイン社は賃貸人、PM・BM会社に情報開示と説明責任の履行を求めました。しかし賃貸人からの回答は「すべてPM・BM会社に任せている」というのみでした。またPM・BM会社からも満足いく回答が得られませんでした。
適正価格を査定し、オーナー側へリーガルレターを郵送

手詰まりになってしまったバリューデザイン社は、RCAA協会に相談します。さっそく協会員である(株)スリーエー・コーポレーション(3A C)の担当者が査定を行ったところ、契約書に記載されている通りの工事を行った場合、税別で320万~350万円が適正価格であるという結果がでました。やはりバリューアップ工事だったのです。
バリューデザイン社、RCAA協会、3AC担当者で協議したところ、バリューデザイン社としては紛争や裁判にはしたくないという主張でした。そこで、協会所属の弁護士である横粂先生に法務相談し、リーガルレター(原状回復義務履行の通知)を配達証明で郵送しました。
適切な手順で適正な価格へ
結論から言うと、バリューデザイン社の主張は認められ、原状回復費用は350万円(税別)まで圧縮できました。
ポイントは、バリューデザイン社には原状回復の義務を履行する意志があり、賃貸借契約を遵守する姿勢を伝えたということです。
また、賃貸借契約書に記されている通りの原状回復を実施した場合の費用が、税別350万円であるという根拠(エビデンス)も提出しました。賃貸人側もこのエビデンスを検証し、合理性を認めてくれました。
結果として、敷金から原状回復費用を差し引く方法で明け渡しを実施、合意書を締結しました。
査定者の所見

ビルオーナーが変わってしまった場合、オーナー側が契約書の内容をきちんと把握していないケースがあります。
そのせいで、原状回復工事の範囲や内容が、契約書で定められたところから逸脱してしまうのです。
しかし、あくまで契約書にある原状回復内容を履行することが賃借人の義務です。きちんとした手順とエビデンスを背景に交渉することで適正価格による原状回復工事ができるようになるでしょう。
RCAA協会会員
株式会社スリーエー・コーポレーション
査定員 萩原大巳