「原状回復」とは店舗やオフィスから退去する際、入居時の状態に戻すことを言います。
店舗やオフィスの賃貸借契約は、基本的にテナント(賃借人)側が退去日までに原状を回復させて返却することが義務づけられています。原状回復義務と呼ばれているもので、日本においては一般的な考え方です。
契約書を見ていただければ分かりますが、「原状に回復した上で、本件建物を明け渡す」とか「躯体に関するものを除く、壁、天井、床等に対する貼替、修繕は借主が負担する」といった文言が書いてあるはずです。
契約書で「原状」を定めることで、賃借人はどのような状態に戻せばいいのかが分かるようになっているわけです。
ところが、いざオフィス移転をすることになったテナントが原状回復工事の費用を見積もると、非常に高額なことが多いのです。金額に違和感を覚えながらも、そのまま工事してしまう例が後を絶ちません。
ここでは、なぜオフィスの原状回復費が高いのか、その原因を解説していきます。
原因その1:業者指定による弊害
オフィスの原状回復費用が高くなる原因として真っ先に挙げられるのが「業者を指定することによる弊害」です。
ビルオーナーや管理会社にとって原状回復はビルの資産価値を維持するため、またビル運営のルールに適した電気、空調、防災と他業者がメンテナンスしています。ビル資産である電気その他設備にリンクする工事を得体の知れない業者にやられてしまうのは困ります。
そこで「原状回復工事はビルオーナー・管理会社の指定工事業者に依頼しなければならない」という契約になっていることが一般的です。
しかしテナントにとっては、業者が指定されてしまっているので、工事費用を下げたくても下げられない(相見積もりができない)ということになります。
また比較対象がないので、高額な見積もりを出されても、それが妥当な金額かどうか分かりません。見積もりの妥当性を見破るには建築に詳しいだけでなく、契約書に基づいているかといった法律の知識なども必要なのです。
残念ながら、業者の中には競争がないことをいいことに、またテナントとの情報格差を利用してビルオーナーに都合の良い原状回復という名のグレードアップリニューアル工事をするケースも多々見られます。余計な費用が上乗せされているというケースも見られます。
原因その2:工事の”重層請負構造”
原状回復の工事が高額になる背景には「重層請負構造」と呼ばれるからくりが存在します。
テナントのオフィス退去が決まり、ビルオーナーが工事を発注するのですが、依頼を受けた工事業者(多くの場合はゼネコン、デベロッパー系列会社です)は、自ら工事を行うわけではありません。工事は全て下請けの業者に出すが一般的です。
下請け業者はさらに孫受け業者に発注し、場合によってはそこから各職人や技術者へ発注します。
こうして各業者に渡る度にマージンが発生し、費用が雪だるま式に膨れ上がってしまい、テナントがオフィス移転をする際のトータルコストが高くなってしまうのです。
原因その3:敷金・保証金を返さないビルオーナーの不正
個人(資産家)オーナーが所有しているビルの原状回復工事で見られるケースが、敷金・保証金とほぼ同額の原状回復工事費用が見積もられるというものです。
当然ながら偶然ではありません。これは単に、ビルオーナーが敷金・保証金を返したくないため、不要な工事などで費用を水増しして見積もりを作成しているのです。悪質な場合、退去時に返還されるべき敷金・保証金が既にオーナーが使い込んでしまっていてトラブルに発展してしまうこともあります。(敷金・保証金返還事件)
見積もりを精査し、適正価格で原状回復しよう
このように原状回復工事が高額になるのは様々な理由があります。しかし、法律や相場価格に則って適正な金額で原状回復工事を行うことができれば、費用の圧縮が可能です。
5つの質問
- その工事範囲は適正ですか?
- オフィスの工事区分は、適正ですか?
- 修繕修復方法は、適正ですか?
- 施工面積は、適正ですか?
- 原状回復の根拠図書により可視化していますか?
見積もりを入手し上記の質問に疑問が出てきましたら、原状回復の専門家に相談することをおすすめします。