オフィスを退去することが決まると、賃借人(テナント)の義務として原状回復工事を行う必要があります。
しかし、出てきた原状回復工事の見積もりを見て、「高い!」と驚いてしまう方が多くいらっしゃいます。実際、原状回復費の見積もりは、削減の余地がある高額な状態で出てくることが少なくありません。
しかし、オフィスの移転は頻繁に行われるものではないため、オフィス移転の担当者の方が見積書を見ても、よくわからず「これぐらい高額になるものなのかな」と受け入れてしまうのです。また、敷金(預託金)から差し引き精算するケースが多いことから、値引き交渉が甘くなり、結果として高額な費用で発注するケースが多いです。
- あなたの手にある原状回復費の見積もりは、はたして適正なのでしょうか?
- どうやって見積書が適正かどうか判断できるのでしょうか?
今回は、原状回復工事の見積書を手にしたら必ず確認しておきたい7つのポイントをお伝えします。
そもそも、なぜ見積もりが高いのか!?
実際に見積書をチェックするポイントを見ていく前に、なぜ原状回復工事の見積もりは、適正金額よりも高く出てくることが多いのか、その要因を知っておきましょう。
原状回復費の見積もりが高額になる主な理由として、以下のようなものが挙げられます。
- 工事業者が指定されていて競争が働かない ほとんどの賃貸借契約書では、「原状回復工事はビルオーナー・管理会社の指定する工事業者に依頼する」と定められています。 つまり、「安い業者から相見積もりを取って比較検討する」という余地がありません。指定=独占ですので、市場の競争原理が働きません。
- 重複構造で下請けが多くて高くなる ビルオーナーから発注を受けた工事業者(ゼネコン)は、下請け業者に発注し、さらに下請け業者が孫請け業者に、そして職人や技能士に仕事を発注する、という構造になっています。 各業者がマージンを抜くため、費用が雪だるま式に増えてしまいます。
- 工事範囲が不明確 借りている事務所以外の共有部分まで原状回復工事の対象とされてる、天井や壁など一部修繕すれば済むのに全面貼替しようとしている、原状回復特約に約されていない工事まで原状回復工事の対象とされてる、などのケースが多く見られます。
- 賃借人に不動産についての知識が少ない オフィス移転担当者が見積書を見ても、本当に必要な工事なのか、単価が適正なのか、なかなか判断できません。たとえビルオーナーと金額交渉しても、圧倒的な知識の差に阻まれてしまうため、減額はできたとしてもごくわずかということが多いのです。
※指定工事業者がいない場合、少しでも原状回復費を下げるために相見積もりを検討される方もいるかもしれません。相見積もりについては以下の記事を参考にしてください。
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原状回復費の相見積もりを取るのは危険!?
ビルを退去する際の原状回復工事については、「ビルオーナー・管理会社の指定工事業者に依頼しなければならない」という、賃借人に制約のある内容が記載されている場合があります。 その場合はもう指定業者に依頼す ...
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見積もりが適正金額より高いかを見破る7つのポイント
それでは本題に入りましょう。原状回復工事の見積書を受け取ったら、以下の7点を確認してみてください。
賃貸借契約に沿った見積もり内容になっているか?
入居時の契約書をよく読んで、原状回復についてどのような取り決めがなされているか確認してください。
契約書には「工事業者が指定されているかどうか」、「通常損耗も賃借人の負担」という特約が書いてあることもありますので注意が必要です。
見積もり上の面積が実際の工事面積と一致しているか?
通常、契約面積の算出は、壁の中心線を基準として測る「壁芯計算」で行われます。これは実際に使用できる部屋の面積(壁の内側部分)と一致せず、実際の占有面積よりも大きくなっています。
つまり、見積もり上の面積が契約面積と同じである場合は、原状回復費の減額できる可能性があります。
共用部分が工事に含まれていないか?
本来原状回復工事をする必要のない共用部分(トイレやエレベーターホールなど)まで原状回復工事の対象になっている場合があります。こうした部分は減額することができます。
工事のやり方に無駄がないか?
「1回で済む作業が2回以上に分かれているのではないか」、「トラックの台数や作業人員が多すぎるのではないか」といった疑問を感じたら、減額の余地があるかもしれません。
また、工事は夜間に行うと割高になります。工事をする時間、技能工の出面も確認しておきたいポイントです。工程表をチェックしましょう。
グレードアップ工事になっていないか?
原状回復工事の際、壁や天井などの品質を原状(入居時の状態)より高いものに張り替えようとしている場合や、新たな設備を導入しようとしている場合などが、グレードアップ工事に該当します。
原状回復とは「入居時の状態に戻すこと」なので、設備のグレードアップは原状回復工事の範囲を超えており、減額できるポイントといえます。
※(特に電気、空調、換気、防災、その他設備は、環境対応型に改修する必要があり原状回復と一緒に改修することでコストを大幅に抑えられます。注意しましょう。)
資材や人件費が市場価格とかい離していないか?
相場は一概に言えない部分もあり、きちんと把握するのは難しいかもしれませんが、単価設定が法外でないかどうかは確認する必要があるでしょう。
国土交通省の「令和5年度建築保全業務労務単価について」を参考にするとよいでしょう。
(国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001575243.pdf)
その他、原状回復の範囲を超えた工事が含まれていないか?
これまでに挙げたもの以外でも、例えばエアコンの分解洗浄(オーバーホール)、ブラインドの新規交換の費用は原状回復の範囲を逸脱しています。このように“原状回復の範囲”に着目して見積書を確認しましょう。
※原状回復工事の適正な範囲に関して、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
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オフィス移転時の原状回復工事、範囲はどこまで?
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7つのポイントをチェックするのが難しい場合は?
7つのポイントをご紹介しましたが、
- 資材や人件費の相場なんて知らない
- もしかしたら不利な契約を結んでしまったかも
- そもそもどこまでが原状回復の範囲なのか契約書の読み方が分からない
- 図面の詳細など見たこともないし、分からない
など、難しいと感じる箇所もあったのではないでしょうか。
それもそのはずで、原状回復費の見積もりを正しく理解するためには、不動産、建築、法律など、さまざまな分野の専門知識が必要になるケースが多いのです。
オフィス移転の担当者は、そのために入社したわけではないので、知識が不足していて当然です。また、一朝一夕に知識が身につくほど簡単な問題でもありません。
そんな状態で賃貸人(ビルオーナー)と原状回復の費用について減額交渉をしても、非常に難しいと思います。減額幅が少額であったり、オーナー企業との関係性が悪化してしまい、ビジネスに影響を与える恐れもあります。
今回ご紹介したポイントに沿って見積書を見てもわからない疑問や、「どうやって交渉すればいいのか」「契約内容が自分では判断できない」といった悩みがある場合は、原状回復の専門家に問い合わせるのが一番です。
ご紹介したポイントをさらに詳細に確認してくれたり、どれくらい減額が可能なのか計算してくれたりと、入居者の側に立った的確なアドバイスをしてくれることでしょう。