「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、民間賃貸住宅についての賃貸借契約における原状回復に関するトラブルを未然に防止するための一般的なルールです。国土交通省がまとめました。
このガイドラインは、原則として民間の賃貸住宅を想定したものです。しかし、オフィスの原状回復を行う際も、何かしらの指針が欲しいもの。
このガイドラインは、オフィスの原状回復にも適用できるのでしょうか?
この記事では、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について紹介するとともに、オフィスの原状回復にも有効なのかどうか、民間賃貸住宅とオフィスの原状回復の違いはどこにあるのか、説明していきます。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは?
民間賃貸住宅では、退去時の原状回復の範囲や金額について、借主と貸主の間でトラブルが急増していました。原因は、多くが入居時の賃貸借契約時に原状回復時の費用負担について詳細な取り決めをしていなかったことにあります。
そこで、平成10年に国土交通省(当時は建設省)が、民間賃貸住宅の賃貸借契約における指針として、原状回復に関する裁判例等を集約して「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定したわけです。
その後、平成16年に裁判の判例を踏まえて改訂、平成23年に一層具体的な内容に再改訂されました。現在も、平成23年の改訂版がガイドラインとして使用されています。
しかし、このガイドラインの利用にあたっては注意点があります。冒頭で述べた通り、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、あくまで民間賃貸住宅を想定して作られたルールであるという点です。
ですから、
- 賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定している。
- 賃貸借契約締結時において参考にする。
- すでに賃貸借契約を行っている場合は、現在の契約書が有効なものなので、契約内容に沿った取り扱いが原則だが、条文が曖昧な場合、契約締結時に何か問題がある場合に参考にする。
ということです。
これはすなわち、
- オフィスの原状回復を想定して作られたガイドラインではない
- 賃貸借契約を結ぶ前に、契約内容がおかしくないか確認する
- 現在の契約が有効なので、必ずしもガイドライン通りになるわけではない
ということになります。「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には法的拘束力もありません。
ただ、オフィスの原状回復に関するガイドラインではないにしろ、原状回復というものがどういう考えのもと行われるべきか、という部分は、オフィスの原状回復にも通ずる部分はあります。以下で簡単に紹介していきます。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」による原状回復の定義
賃借人の原状回復義務の「原状」とは、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではありません。正しくは、善管注意義務違反による損耗・毀損がある場合に、善管注意義務違反がなかった状態に戻せばいいということです。
※善管注意義務とは一般的・客観的に要求される程度の注意をしなければならないという注意義務のことです。
原状回復とは、賃賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より
過去の判例では、原状回復を「通常の使用収益に伴って生じる自然的損耗は別として、賃借人の保管義務違反等その責に帰すべき事由によって加えた毀損について原状に復せしむ義務」と定義しています。
「原状」の意味をこのように考える理由は、「経年変化・通常使用による自然損耗(通常損耗)等の復旧費用は、賃料に含まれており、これをも賃借人に負担させると賃料の二重取りになる」ということからです。
ガイドラインでオフィス原状回復にも通ずる部分とは?
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」においてオフィスの原状回復にも通ずる部分は、一例としては以下のような内容が挙げられます。
負担対象範囲について
毀損部分と補修簡所にギャップがある場合があります。たとえば、ふすまの一部を破いたとしても、破いた部分だけを補修することは不可能です。このような場合には、賃貸人と賃借人間で不公平にならないように分担すべきとされています。
具体的には、フローリングについては毀損部分のみ、ふすま、障子、畳表については1 枚単位で賃借人が負担するのが妥当です。
例えば、通常損耗部分の修繕費が見積もりに含まれているケースや、床・壁・天井などの一部毀損の場合に全面張替えでの見積もりが出てくるケースは、オフィスの原状回復でも起こりうる事例ですので、気をつける必要があるでしょう。
ガイドラインに沿った判決例
オフィスであっても、マンションの1室のような小規模事務所では、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に沿って原状回復費用が認められる判決が出た事例も存在します。
規模が小さいことから「実態において居住用の賃貸借と変わらない」とみなされたためです。
この判例は、当該物件がマンションで、オフィスとはいえパソコンやコピー機程度しか設置していなかったため、実態としては民間利用(一般居住用)と大差がないと判断されたものです。
その上で「原状回復費用は、いわゆるガイドラインにそって算定すべきである」としました。つまり、小規模オフィスの場合の原状回復費用の算定には国土交通省住宅局が作成したガイドラインを適用できると考えられます。
この事例はあくまで「小規模」事務所に関するもので、常にガイドラインに沿った判決が出るわけではありません。しかし、オフィスの原状回復においても、ガイドラインの内容を参考として知っておくとよいかもしれません。
オフィス原状回復の注意点とは
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、一部オフィスの原状回復に通ずるところはあるものの、そもそもオフィスを想定して作られてはいません。また、一般消費者が借りる民間賃貸住宅とは違い、オフィスの場合は借主を保護するような法律(消費者契約法)もありません。
例えば、オフィスビルの賃貸借については、「賃貸人には原状回復条項に基づき通常の使用による損耗・汚損をも除去し賃貸当時の状態にして変換する義務がある」とされた判例もあります。
< 判決例 >
この判例が法人の原状回復において重要視されるのは、オフィスとしての使用を目的とする賃貸物件では原状回復特約が有効だとした点です。これによって、オフィス退去時の原状回復工事を行う必要があり、借主はその義務があると判断されました。
また、民間では負担する必要のない「通常損耗」についても、オフィスの場合は除去すべきであるという判断が出されました。先に紹介した小規模事務所の判例においても、この部分は肯定されており、原状回復特約は有効であるとされています。
改定民法の原状回復義務について
2020年4月より「住居、店舗、オフィスを問わず原状回復内容を明文化のうえ、借主に理解させる義務は貸主にある」と定めました。第621条により、通常損耗の借主負担を求める場合、特約、図書、契約書で原状回復内容を明文化する責任は全て貸主にある、とされます。これは、契約書に明文化していない原状回復の工事項目は法的根拠がないことを意味します。
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原状回復は本来、退去時に慌てるのではなく、入居を決めて契約を結ぶ際に原状を確定、原状回復義務履行を取り決めた事項です。更新時に原状回復義務を明確にした証を残してください。また、これから移転する先のオフィスと契約する段階でも、原状回復について交渉して明確にした証を残すことがベストです。
そして退去するオフィスについては、契約事項がどうなっているか、まずはしっかり確認してみてください。
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