原状回復がトラブルになりやすい社会状況
「げんじょう」、「原状」、「現状」いずれも発音、読み方も同じですが、言葉にはいろいろな意味、使い方があります。
「原状」とは、借地借家法では、貸主・借主が契約書上で「原状」と定めた状態のことを指します。
- 「現状」とは、現在の状態のことを意味します。
- 「原状回復」とは、貸主・借主が原状と定めた状態に復旧する工事となります。
- 「現状回復」とは、現在の状態ですから、元に復旧する事は物理的に不可能となります。
2020年4月に施工された改正民法では、原状回復についてのルールが明文化し、借主に原状回復義務[1]を説明の上、理解させる責任は貸主にあると明記されました。
[1] 原状回復義務・・・賃貸物件を貸主と借主が「原状」と定めた状態に復旧する義務のこと
事業用不動産の原状回復で多いトラブルは?
例)
築10年のビルに入居し、5年間事業を営みました。リモートワークの浸透により働き方が変わり、オフィスを見直しオフィス移転を決定した。
このようなオフィス移転の「原状回復」が問題となります。
法理では15年前に復旧する事が「原状回復工事」となります。しかし、既に内装資材は生産中止、電気、空調換気、防災、セキュリティ全ての設備は環境対応型設備に変わっています。物理的に15年前の「原状」に復旧できないという問題です。
すべての建築資材は高騰しており、新しい環境対応の建築資材も高額になっています。当然、原状回復工事費も高騰しています。
そのようなことから「敷金」が返還されず、原状回復工事費も高い。どこに相談すればいいかもわからない。これがトラブルになりやすい原因です。
そんな社会問題を解決するには、住居仕様の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に代わり、事業用賃貸の指定業者による「原状回復・B工事」の見積りに対する「適正査定」が重要となります。
2番目に多いトラブルは、グローバリゼーションによる社会変化です。
東証での取引の7割は外資です。不動産売買、賃貸の4割は外資系といわれる現在、テナントに資本参加している外資系金融関連会社も激増しています。
IT業界には国境はありません。当然会計基準もグローバルスタンダードです。
「入居工事(原状変更工事)」、「原状回復工事」を企業の成長ステージで繰り返すスクラップ&ビルドのオフィス移転、その上資産除去債務の対象です。外資のビジネスパーソンには理解できない慣例です。
デジタルはすべてを可視化します。
高額な「敷金」を現金預金として会計処理し、原状回復費は、借主の計上金額と貸主の原状回復見積の差額が2倍を超える事ことが多いです。
日本独自の指定業者による原状回復見積と計上金額の差額があまりにも大きく、経営者が困惑してしまいます。なぜなら、上場会社は300万円以上の特別損失はプレスリリースの対象になるからです。
社会状況により、原状変更、原状回復、資産除去債務の相談が増えています。
※こちらの記事も参考にどうぞ
「原状回復」 「原状復帰」 「原状復旧」の違いとは
「原状回復」は法律用語、「原状復帰」は建築用語、「原状復旧」は法律用語でもあり一般的にもよく使う言葉です。これらは全て同じ意味であり、「元あった状態『原状』に戻す」、「復旧する」という意味になります。復興は復旧を超えて、さらに理想的な状態にする事となります。
本来、原状回復も次のテナントから選ばれるリニューアル工事「復興の意味の工事」が合理的で理想です。
英語ですと、原状回復「restoration work」、原状回復する「restoration original state(またcondition)」です。オリジナルステイトは「原状」、オフィスではコンディション(状態)が英語で使われます。
最近では、オフィスも喫茶エリア、ソファーエリア、図書エリア、飲食エリア、スタジオ、オンラインブース、執務室、さまざまな会議室など、働き方も働く場も激変しています。
米・英では、オフィスのことを「ワークプレイス」と表現しています。
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原状回復ガイドラインの法的位置付け 「通常損耗」「特別損耗」とは?
ガイドラインとは、司法(裁判所)の法理、考え方を基準としています。
「『原状回復』とは借りた当時の状態に復旧することではない」ということを、国土交通省、47都道府県が基本方針とした借地借家法における原状回復の指針書です。
ただし、使用目的は住居であり、原状回復義務は賃借人の故意、過失、善管注意義務[1]違反、その他通常の使用を逸脱した使用による損耗・毀損を復旧する事と定義しています。これは1990年頃から原状回復をめぐるトラブルが多発したことにより、1998年3月(平成10年)国土交通省、東京都が中心となり取りまとめられました。
業界では、宅建士は「東京ルール」と言っています。その後2004年2月(平成16年)、2011年8月(平成23年)に詳細が加筆され改定されています。
さらに現在では、民法改正に伴い改正民法の原状回復の明文化、及び情報開示説明責任は貸主にある事を明確にしています。目的は原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐ事です。
内容は、借主が故意に過失、善管注意義務違反に関わらず、壊した箇所は修繕修復すること、「特別損耗[2]の復旧」が原状回復義務であると定義しています。
通常損耗[3]については、借主には負担義務がない事を明確に記しています。その上、改正民法では更に詳しく民法第621条[4]で定めています。
ただし、ガイドラインは法律ではなく、あくまでも司法の法理の考え方であり、基準です。
事業用不動産の場合、貸主・借主共に事業を営むための物件でありスペースです。事業の種類により使い方や損耗の程度が大きく違うことから、貸主・借主が合意のうえ定めた原状回復内容「原状回復特約[5]」が法務根拠となります。
契約自由の原則の履行であり、「消費者保護法第10条[6]」も「原状回復ガイドライン」も適用されません。
[1] 善管注意義務・・・業務の委任を受けた人がその分野の専門家として一般に期待される注意義務のこと
[2] 特別損耗・・・故意・過失、又はずさんな使用によって発生した損耗のこと
[3] 通常損耗・・・通常の生活を送る中で生じた損耗のこと
[4] 民法第621条・・・(賃借人の原状回復義務)第621条
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
[5] 原状回復特約・・・賃貸契約を結ぶ際に使用する契約書に『原状回復における貸主と借主双方の負担割合』を記載した内容のこと
[6] 消費者保護法第10条・・・(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)第10条
民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
したがって、契約書締結の際、専門家による賃貸借賃貸契約書(agreement)と原状回復特約のチェックは、IFRS(国際会計基準)、日本会計基準、US-GAAP(米国会計基準)においても資産除去債務の立場からも経営者の責務なのです。
「資産除去債務における敷金の位置付け」借地借家法の問題点
会計基準において、固定資産の取得は入居工事(原状変更工事[1])となり、除去債務は原状回復工事となります。
敷金(deposit)の目的は、「借主の家賃の債務不履行を担保するため」と法律では位置づけています。米・英連邦・EUでは、一律家賃の12倍などの高額な敷金を預託する慣例はありません。
預託金はすぐに使える資金として現金預金「敷金」で会計処理されますが、原状回復義務履行をもって敷金返還請求権[2]が確定されるという硬直した慣例にも問題があります。
[1] 原状変更工事・・・B工事とC工事のこと
[2] 敷金返還請求権・・・賃貸借契約終了時に借主に発生する権利で、敷金の返還を請求できる権利のこと
貸主借主ともに社会情勢に即した経営を求められる現在、「敷金」、「原状変更」、「原状回復」、「指定業者制度」、転貸借(サブリース)禁止条項など、日本独自に進化した借地借家法をグローバルスタンダードに近づける必要に迫られています。
世界でビジネスを展開しているビジネスパーソンに日本の慣例を理解してもらうのは大変なことです。
世界から人・物・金・情報を集めることが経済力であり、国力の源泉である現在、世界一の都市、GDPを誇る国際都市東京。
ここに、グローバル企業のアジアのベッドクウォーター「本部」を新設する政策、借地借家法にしなければ、成熟国家は国も都市も衰退に向かいます。
アジアの世界に占めるGDPは、2030 年には6割を優に超えます。
経済に国境はありません。デジタルネットワークにより全てが可視化され、グローバルスタンダードを基準に事業を営むことがガバナンスであり経営責任となりました。
私どもRCAA協会は、「原状回復・B工事」の無料査定を承ります。資産除去債務までご相談下さい。
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- 原状回復費適正査定 (一般社団法人RCAA協会)
- ロゴと原状回復適正費用目論見書(RCAA協会会員 株式会社スリーエー・コーポレーション)
下記も参考に是非読んでみてください。
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海外の原状回復費とオフィス賃貸事情・アメリカ編
世界から多くのビジネスマンを引きつけてやまないアメリカ。彼らがアメリカで一定以上の規模のビジネスをしようと思ったら、オフィスの賃貸は避けられないでしょう。 今回は、アメリカにおける原状回復を含めたオフ ...
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