「原状回復のトラブルは法律では敷金返還事件」
今回は大阪地方裁判所(大阪地裁)で原状回復の範囲、工事費の適正金額を裁判で争い、裁判官立会で和解した実例です。
原状回復の争いは、原状回復義務履行により敷金返還請求権が確定しますので、裁判では事件番号のタイトルは「敷金返還事件」となります。
ビルオーナー及びビル側業者は、AM(アセットマネジメント)、PM(プロジェクトマネジメント)、BM(ビルディングマネジメント)、指定業者がビルオーナーの代理としてビルを運営しているのが一般的です。もし、借主がトラブルになった場合は専門家のサポートはなく、極めて不利な状況で争うこととなります。
裁判になりますと、建築、設備、借地借家法、建物維持管理など専門家でないと見積内容を可視化できません。
上記理由により、大阪地裁の建築専門部会が担当することが一般的です。東京では、民事22部建築専門部会が担当します。トラブルの前に原状回復の専門知識がある有資格者に相談して下さい。また弁護士も建築紛争を経験した弁護士に委任することをお勧めします。
裁判官の和解勧告の結果とは
原告 | 某債権回収会社(甲) |
被告 | 大阪某ビルオーナー(乙) 指定業者スーパーゼネコン大林組 |
- 原状回復費798万円が350万円となり、甲が負担すること
- 敷金783万円より原状回復負担金を差引残金433万円となり、被告は原告にすみやかに返還すること
- 明渡し遅延損害金は却下となる
- 裁判費用は、すべて乙が負担とし、敷金返還金額433万円に年率5%の損害金を乙は甲に支払うこと
結果
甲の主張を全て認めた和解勧告通りの内容で、甲乙の和解が裁判員立会いのもと締結された。削減額448万円、削減率56%となる。(※総額表示/千円単位四捨五入)
本件実例解説を動画でご覧下さい
甲の主張・乙の回答 争点の明確化とロジックの構築
甲の主張
- 原状回復の範囲が原状回復義務を逸脱している
- 原状回復特約の有効性、基準階仕様に復旧する原状回復義務は、原告である甲にはない
- 指定業者である大手ゼネコン大林組の工事費の正当性(350万円が適正価格)
- 明渡し遅延損害金の対象外である
- 敷金より350万円の原状回復負担金を差引き、残金433万円の敷金返還を要求する
- 訴訟費用、本件の弁護士費用も含めて、すべて乙の負担を要求する
上記①から⑥の争点を明確にした原告である甲の要求である。建築訴訟は、建築に詳しく建築用語を理解できる弁護士が求められる。甲の代理人は、RCAA協会の関西地区法務指導弁護士「弁護士法人 なにわ綜合法律事務所 Y先生」にお願いをした。
賃貸契約書、原状回復特約、工事区分、原状確定図書、仕上げ表、館内規則を基に徹底した現地調査を実施。諸官庁消防の申請図書まで確認し、法務根拠のあるロジックを構築した。甲の社長及び法務担当は、M &Aにより本件(原告の会社)を購入され、賃貸借締結時のやり取り、入居工事もわかる人が誰もいないため、事実関係を把握するのに時間を要した。
現在の社会情勢は、不動産の流動化によりビルオーナー、テナントともにオーナーチェンジが頻繁に行われており、オーナーチェンジといえども賃貸借契約の義務と権利を承継するのが法理である。
乙の回答に対する甲の返答「現況及び事実確認について」
- についての返答
賃貸借期間中乙の都合により天井に付いている電気、空調換気、防災、その他設備を新規交換した。資産は乙所有である。(証拠として、諸官庁、消防全て被告資産として申請許可証・・・甲一号)
従って、現在の状態が原状である。原告に電気、空調、換気、防災その他設備の基準階仕様に復旧義務はない。 - 原状回復義務は、被告指定業者見積より電気、空調、換気、防災の移設工事を除いた工事が原状回復工事となる。原状回復特約、また仕上げ表には、既に建築資材は製造中止であり、意味をなさない。(適正査定見積書・・・甲二号)
- 指定業者は、原状回復を施工することを独占的に認められていた権利であるが、市場価格を考慮することは資本主義の原理原則である。(民法の原則・近隣芒種の見積比較表・・・甲三号)
- ①から③の情報開示説明責任は、すべて乙にある。乙は、その義務を履行していない。甲は、明渡し期日までに甲の所有物を撤去の上、貸室の鍵を返却している。ただし撤去に伴う。(特別損耗の復旧は認める)明渡し遅延損害金の対象外となる。
- ①から④は、原告の正当な権利である。それを書面で通知しても被告に拒否された事実を考慮すると、正当な敷金返還請求権についての利息(損害金)を被告は支払うべきであり、裁判費用、弁護士費用の甲負担費用を乙は甲に支払う。
上記が原告の法務根拠のある正当な権利の主張としてロジックを構築し、すべてをエビデンスとして裁判官に提出。
裁判官は、原告である甲の主張をすべて認め、和解勧告を乙に強く薦め、和解書締結となった。認められない事項は、原告の弁護士料金、原告被告共に弁護士料金は各自負担とした。
原状回復適正査定書により内訳をすべて可視化、適正査定書が本件の物差しとなり、被告である指定業者大林組の見積りを仮説準備、直接工事、諸経費、会社経費を3事項に区分け、電気その他設備工事を除外した査定金額は420万から450万となる。そこから天上の損傷復旧を除き仮説準備、諸経費、会社経費を原告負担金、被告負担金として、原告負担金350万とした。
この査定書が建築部会専門委員に全て認められ、原告負担金は350万となった。
甲の言葉を紹介
乙はあまりにも高圧的で、「指定業者の見積は大手ゼネコン大林組であり、適正価格である。疑問の余地はない。」そんな態度に見受けられました。
当初、RCAA協会萩原さんに相談したところ、裁判は避け査定書の金額より2割増しまでは譲歩する意向でした。しかし、
「○月○日迄に原状回復工事を発注捺印すること」「敷金では不足する費用を振り込むこと」それを履行しない場合、明渡し遅延損害金を請求する。
あまりにも理不尽で高圧的だったので、萩原氏、協会法務担当弁護士に相談の結果、「訴訟やむなし」となりました。結果は全て私たちの主張を裁判官が認めてくれ、本当にありがたく思いました。ありがとうございました。
甲技術アドバイザー萩原理事のコメント
本件のケースは氷山の一角に過ぎません。ほとんどのクライアントは明渡し遅延損害金で圧力をかけられますと、不本意ながらしかたなく発注、捺印となります。
土地も株も会社も外資が参入している今、グローバルスタンダードが基準となります。フェアーがキーワードです。
原状回復適正査定は、ますます重要となります。
会計基準が国際会計基準(IFRS)スタンダードになった今、資産除去債務で原状回復は除去債務、敷金は現金預金として勘定科目に計上されます。入居工事(原状変更)は資産であり、原状回復は除去債務、そして敷金は現金預金です。これを「ミエルカ」することは、経営責任となります。
ご相談は無料です。移転先B工事、移転元原状回復工事、資産除去債務までご相談承ります。