原状回復をめぐる裁判の解説

【実例】平成30年30202号損害賠償等請求事件

甲は地主であり貸主、乙はAir B and Bを業とする会社であり、乙の親会社は光陽国際特許法律事務所である。法務事務の専門家及び弁護士が数名在籍している国際特許法律事務所である。

乙の代理人弁護士は、RCAA及び3ACの法務指導弁護士、東京山手法律事務所代表弁護士野間啓先生と塚本亜里沙先生である。

専門性の高い原状回復という建築紛争の為、乙丙の技術アドバイザーとしてRCAA所属の技術者萩原大巳、小川友幸が担当した。

原告は地主(賃貸人):M住宅(以下、「甲」という)

被告は借主(賃借人):(株)光陽コラボ (以下、「乙」という)

被告代理人弁護士: 野間啓、塚本亜里沙  (以下、「丙」という)

乙丙の選任技術アドバイザー: 一般社団法人RCAA協会(以下、「RCAA」という)、(株)スリーエー・コーポレーション(以下、「3AC」という)      

争点は下記事項である。

※金額は、全て(税別)である

 

1.原状回復費用の額

甲は原状回復費用の額として2,951,133円を主張

乙丙とRCAAは、適正費用901,503円を主張

甲乙の大きな主張の違いは、特別損耗の修繕修復の方法の違いであった。甲は、少しでも傷、損傷がある建材、住宅設備を全て新品にする主張である。乙丙RCAAは、修繕修復(補修)を主張し、修繕不可能な場合のみ新替取替が妥当とした。ただし、内装材の法定償却は6年、付帯する設備は15年、新替取替でも法定償却は考慮するのが当然であるとの主張であった。

結果、原状回復費用は、2,951,133円が901,503円となった。敷金600,000円が預託済みの為、301,503円を乙より甲に支払うという判決となった。また、平成30年6月24日から令和2年6月24日まで、上記費用に5%の金利をつけて支払う判決であり、乙丙RCAAの主張が全面的に認められた。

\判決のポイントと判決の根拠を解説/

原状回復の内容について、貸主は借主に図書、仕上表、工程表など情報を開示し、現地にて原状回復の内容を説明する責任がある。また、事業用不動産の賃貸借契約書においても、特別損耗の方法として全て新品に交換することは認められず、修繕補修の義務にとどまる。また、法定償却も考慮することは民法の原則通りであるとの見解であった。

判決の結果、原状回復費用は、2,951,133円という甲の主張する額から901,503円になり、2,049,633円の削減に成功した結果となった。

2.明け渡し遅延による損害賠償義務の有無

乙は、明け渡し日までに室内の乙所有の動産を収去し、カギを貸主に返却している事実により、明け渡し遅延による損害金、その他損害金は棄却という、乙丙RCAAの主張が100%認められた。

甲は、原状回復費及び損害金5,922,584円を主張。乙丙RCAAは、損害金を支払う法務根拠は無いと主張。結果、乙丙RCAAの主張が全面的に認められた。

\判決のポイントと判決の根拠を解説/

乙は乙所有の動産を収去し、カギ、カート返却を明け渡し日までに実行していたが、社会通念上不当もしくは原状回復範囲を逸脱している原状回復見積に対し、甲乙間で発注ができず、結果明け渡し遅延になり損害金が発生したに過ぎない。また次の借主のリーシング、他損害金は乙の責任ではない為、全ての損害金は棄却となった。

このような判決は過去に数件あり、本件も類似した判決であった。

3.不法行為の成否

甲は丙とRCAAが提携しており、弁護士法第72条(非弁行為)にあたると主張。乙丙RCAAは、原状回復工事の施主である乙は、丙RCAAに法務根拠の相談し、見積内容の正当性を弁護士、建築士、宅建士などに助言、意見を求めるのは乙の当然の権利と主張。その分析の為、乙が丙RCAAに賃貸借契約書、見積書、その他書類を、開示することは、守秘義務違反に当たらないと主張。

結果、裁判所は甲の主張である弁護士法第72条違反、守秘義務違反を全面的に棄却、乙が専門家に相談する行為は当然の権利と判決を下した。

訴訟費用負担については、甲が9割負担、乙が1割負担とした。

\判決のポイントと判決の根拠を解説/

  • 弁護士法第72条の非弁行為について
  • 賃貸借契約書守秘義務について

借主乙の、原状回復工事、明け渡しの条件など、専門家に助言を求める行為は、借主の正当な権利であり、貸主は賃貸借契約、原状回復工事などビジネスとして行っており、貸主借主間とは情報の格差がある。借主は専門性の高い明け渡しを伴う原状回復工事において、専門家に情報を開示、助言を求めることは借主の正当な権利であり守秘義務違反、非弁行為といえず、甲の主張は全面棄却となった。

もともと非弁行為は、債権の整理、回収などについて反社会的勢力が担うことを規正した法律である。法務事務であっても、借地借家法は宅建士、建築基準法は建築士が通常の業務として行っていることであり、ビル管法など、専門性が高く、宅建士、建築士などの専門家に相談することは、ビジネスの現場において当然であると考えられる。また、原状回復をめぐる紛争(敷金返還請求事件)では、東京地方裁判所は民事22部の専門部会で担当し、原告、被告、裁判官側全てに専門家専門委員がサポートしている事実がある。弁護士、裁判官など、法律の専門家だけでは公正な判決は難しいとの判断から専門部会が存在するのである。

 

本件担当技術者・記事作成者

査定員 萩原大巳

萩原 大巳

一級建築施工管理技士

宅地建物取引士

小川友幸

小川 友幸

一級建築士

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