原告、被告関係者の紹介と紛争のあらまし
原告「甲」は地主であり、被告「乙」は借主である。乙はAirbnb(エアービーアンドビー)を業とする会社であり、乙の親会社はK国際特許法律事務所である。法務事務の専門家及び弁護士が数名在籍している国際特許法律事務所である。
原告 | 地主(甲) |
被告 | K国際特許法律事務所(乙) |
被告代理人弁護士 | N先生(丙) |
乙の代理人弁護士は、RCAA協会の法務指導弁護士 N先生である。専門性の高い原状回復という建築紛争のため、乙丙の技術アドバイザーとしてRCAA協会会員スリーエー・コーポレーションの技術者萩原大巳、小川友幸が担当した。
原告「甲」は賃貸人、被告「乙」は賃借人、被告代理人弁護士である「丙」、乙丙の選任技術アドバイザーは一般社団法人RCAA協会(以下、「RCAA」)である。
甲は原状回復費用として、319万円 (総額表示/千円単位四捨五入) を主張。乙丙とRCAAは、適正費用97万円を主張。→ 和解勧告は、乙の主張を全面的に認め97万円となる。
甲乙の大きな主張の違いは、特別損耗の修繕修復の方法の違いであった。甲は、少しでも傷、損傷がある建材、住宅設備をすべて新品にする主張である。乙丙RCAAは、修繕修復(補修)を主張し、修繕不可能な場合のみ新替取替が妥当とした。ただし、内装材の法定償却は6年、付帯する設備は15年、新替取替でも法定償却は考慮するのが当然であるとの主張であった。
結果、原状回復費用は、319万円が97万円となった。敷金60万円が預託済みのため、差額の37万円を乙より甲に支払うという判決となった。また、「2019年6月24日から2020年6月23日までに上記費用37万円に損害金として、年率5%の金利をつけて支払う」という和解勧告であり、乙丙RCAAの主張が全面的に認められた。
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明渡し遅延による損害賠償責任の有無
乙は、明け渡し日までに室内の乙所有の動産を収去し、カギを貸主に返却している事実により、明け渡し遅延による損害金、その他損害金は棄却という、乙丙RCAAの主張が100%認められた。
甲は、原状回復義務不履行による明渡し遅延損害金240万円を主張。(原状回復義務不履行による賃貸物件としての機会損失の損害金240万円)乙丙RCAAは、損害金を支払う法務根拠はないと主張。
結果、乙丙RCAAの主張が全面的に認められた。
判決のポイントと根拠を解説
原状回復の内容について、貸主は借主に図書、仕上げ表、工程表など情報を開示し、現地にて原状回復の内容を説明する責任がある。また、事業用不動産の賃貸借契約書においても、特別損耗の方法としてすべて新品に交換することは認められず、修繕補修の義務にとどまる「特別損耗」。また、法定償却も考慮することは「民法の原則」であるとの見解であった。
判決の結果、原状回復費用は319万円という甲の主張する費用から乙丙RCAAの主張する原状回復費用97万円なり、222万円の削減となった。
乙は乙所有の動産を収去し、カギ、カート返却を明渡し日までに実行していた。しかし社会通念上、不当もしくは原状回復範囲を逸脱している原状回復見積に対し、甲乙間で発注ができなかった。結果、明渡し遅延になり損害金が発生したに過ぎない。また次の借主のリーシング、他損害金は乙の責任ではないため、すべての損害金は棄却となった。
このような判決は過去に数件あり、本件も類似した判決であった。
※貸室の借主所有の動産を撤去、鍵、カードその他貸主所有の物品を返却、文書にて明渡しを通知すれば、明渡し義務を履行とみなされる。
非弁行為(弁護士法72条)守秘義務に対する裁判員の見解
甲は丙とRCAAが提携しており、弁護士法第72条(非弁行為)にあたると主張。
乙丙RCAAは、原状回復工事の施主である乙は丙RCAAに法務根拠の相談をし、見積内容の正当性を弁護士、建築士、宅建士などに助言、意見を求めるのは乙の当然の権利である。その分析のため、乙がRCAAに賃貸借契約書、見積書、その他書類を開示することは、守秘義務違反に当たらないと主張。
結果、裁判所は甲の主張である弁護士法第72条違反、守秘義務違反を全面的に棄却、乙が専門家に相談する行為は当然の権利と判決を下した。
訴訟費用負担については、甲が9割負担、乙が1割負担とした。
実例解説「非弁行為にあらず」「守秘義務違反にあらず」
弁護士法第72条の非弁行為について、また賃貸借契約書守秘義務について
借主である乙の原状回復工事、明け渡しの条件などを専門家に助言を求める行為は、借主の正当な権利であり、貸主甲は賃貸借契約、原状回復工事などビジネスとして行っており、甲乙では情報の格差がある。借主である乙は専門性の高い明渡しを伴う原状回復工事において、専門家に情報を開示、助言を求めることは借主乙の正当な権利であり、守秘義務違反、非弁行為といえず、甲の主張は全面棄却となった。
もともと非弁行為は、債権の整理、回収などについて反社会的勢力が担うことを規正した法律である。法務事務であっても、借地借家法は宅建士、建築基準法は建築士が通常の業務として行っていることであり、ビル管法など、専門性が高く、宅建士、建築士、設備士などの専門家に相談することは、ビジネスの現場において当然であると考えられる。また、原状回復をめぐる紛争(敷金返還請求事件)では、東京地方裁判所は民事22部の専門部会で担当し、原告、被告、裁判官側全てに専門家専門委員がサポートしている事実がある。弁護士、裁判官など、法律の専門家だけでは公正な判決は難しい。元々本件は原状回復の特別損耗のあり方、解釈により原状回復費用が争点であり、原状確定は誰の責任かを争う裁判である。
建築基準法、建物維持管理、借地借家法の善管注意義務の現実の問題を論じるには、各業種の専門家の意見は公正を求める裁判において甲乙ともに助言を求めることは、双方の正当な権利であるとの解説である。
クライアントよりいただいたコメント
ファミリーで不動産賃貸業を営む貸主「甲」は、長年の不動産賃貸の慣例を当たり前だと思い込み、原状の確定の説明もなく、すべての建材に少しでも損傷があれば新規交換(特別損耗)と思っていました。親会社は特許法律事務所であるため、弁護士は8名在籍していましたが、建築紛争であるためRCAA協会の弁護士にすべてを委任いたしました。
結果、私たちの100%勝訴となりました。初めから原状回復費用は、100万円が適正査定額と聞いていましたので、敷金60万円では不足は理解していました。貸主「甲」から法的手続きを取らせるのはRCAA協会の萩原理事の作戦でした。予想通りの結果となり、トラブルが片付き安堵しています。
萩原理事、小川理事、法務指導弁護士N先生には、大変お世話になりました。
(代表取締役 田野倉 様)
本件担当者紹介
宅建・技術アドバイザー
萩原 大巳
一級建築施工管理技士
宅地建物取引士
建築設備技術アドバイザー
小川 友幸
一級建築士