オフィス移転の際、多くの契約では原状回復が義務付けられており、原状(借りたときの状態)に戻さなくてはいけません。
そこで、原状回復工事の見積もりを取ってみると、あまりに高額で驚くことでしょう。しかも、担当者は原状回復にかかる費用相場を知らないため、その見積もりの価格が適正なのか判断できません。
実際、原状回復工事の費用相場は、どれくらいなのでしょうか?
今回は原状回復の相場について解説いたします。この記事を読めば、自社の原状回復工事の見積もりが適正かどうか判断するひとつの参考になることでしょう。
オフィス原状回復費の相場は?坪単価2.75万〜44万円、何でこんなに違うの?
現在の原状回復工事の費用相場を坪単価にすると、だいたい以下のようになります。
- 小規模オフィスの原状回復工事費相場
坪単価/27,500円〜77,000円(面積50坪未満) - 中規模オフィスの原状回復工事費相場
坪単価/66,000円~110,000円(面積50坪以上100坪未満) - 大規模オフィスの原状回復工事費相場
坪単価/88,000円〜165,000円(面積100坪以上300坪未満) - スーパープレミアム(複合施設ビル)オフィスの原状回復工事費相場
坪単価/165,000円〜440,000円(面積300坪以上の築浅スーパーグレードのインテリジェントビル)
※RCAA協会原状回復適正査定2021年調査(総額表示)
以上がひとつの目安です。
実際は、ビルの立地やグレードなどが影響して上記の枠におさまらないケースも存在します。費用相場には相当の幅があるのです。特に築浅、新築のAグレード、スーパーグレードのビルは、坪単価16.5万~44万円が原状回復工事費坪単価です。ビル本体が、全ての電気、その他設備を自動制御する省エネ、環境対応型のネットワークのインテリジェントビルだからです。
また、2022年9月以降、エネルギー危機、資源高、円安により原状回復工事費は高騰傾向にあります。
「人手不足で普段よりも坪/3万円程度高くなっている」「特に外資系企業に見られるこだわりの内装は、坪あたり倍近く高くなった」といった企業の悲鳴が聞こえてきます。
結果として、国際会計基準(IFRS)の資産除去債務計上金額では予算が不足し、敷金(預託金)では原状回復工事費が不足するなどの相談が増えています。
原状回復費用は、もともとオフィスの規模や立地、ビルのグレードなど状況によって幅があるうえ、建材費や人件費の高騰など社会状況によっても価格が変化するので、相場としてはとてもつかみにくいのです。一般的にいわれている原状回復工事費の相場はないと思って下さい。
原状回復費用の指定業社見積は入居工事(原状変更工事)業社の倍額以上が当たり前‼
大多数の指定業社から原状回復見積もりとして提示される金額は、一般的な入居工事業社よりも高く倍額以上が当たり前の業界です。
その原因をグローバル不動産会社C&W社アジア統括不動産アナリストは、ズバリ「ビルに紐づけられた指定業社が原因」と喝破しています。
そのうえ、GX(グリーントランスフォーメーション)に逆行するスクラップ&ビルドの移転元原状回復、移転先B工事、高額な預託金(敷金制度)、これがグローバル企業がアジアのヘッドオフィスを国際都市東京にリーシーングする最大の障壁と言い切っています。 どこまでも自由パーソナライズの経済であるアメリカ人なら暴動が起こると言っています。そのぐらい日本の原状回復移転先B工事と敷金制度はハードローで変化に対応できない制度であると批判しています。
上記の課題解決を目的として、日本会計基準も資産除去債務を取り入れました。敷金(預託金)については、改正民法第622条の2第1項で敷金の定義目的、返還時期を明文化しました。原状回復においても、改正民法第621条で原状回復の定義範囲、工事内容の明文化は全て貸主責任であると定められました。
会計基準、借地借家法もグローバルスタンダードを考慮してよりフェアになりつつあります。
これは、原状回復工事費は競争原理を重んじ適正価格まで値下げする権利を国家が保証してくれたということです。その際、原状回復は敷金返還とセットなので借主の債務を全て履行したら速やかに敷金返還をしなさいと法律で約された事を意味します。
もちろん、すべてのビル管理会社指定業社が割高な見積もりを出してくるわけではなく、最初から適正価格の見積もりを出してくるケースも稀にあります。ただ、不当に高額な見積もりを提示する会社が多いことも事実です。しかも、見積もりが適正かどうかを見抜き、適正価格まで削減させるのは、建築設備、宅建、法務など専門的な知識がなければ非常に困難です。
なぜ初回見積もりが入居工事業者よりも高くなるのか?
多くの場合、原状回復の見積もりとして提示される金額は、一般的な建築工事と比べると倍額が当たり前です。
大型ビルの指定業社初回見積もりの坪単価は、8.8万円~16.5万円になるケースが多いです。ただし、繰り返しになりますが、これはあくまでも原状回復工事の初回見積もりの金額です。
冒頭に提示した原状回復工事費坪単価/2.75万円〜44万円、この金額から適正査定した原状回復工事の金額は3割程度安い金額になります。(2022年適正査定平均値/RCAA協会・スリーエー・コーポレーション)
これが意味するのは、
原状回復費は削減の余地が大きい
ということです。
見積もりが適正かどうかを見抜き、適正価格まで削減させるのは、専門的な知識がなければ非常に困難なのです。
なぜ初回見積もりが相場よりも高くなるのか?
原状回復の初回見積もり価格が入居工事業社(一般的な工事業社)と乖離し、適正な価格といえなくなっている理由として、主に以下の3つが考えられます。
現地を視察せずにサバヨミ見積りをしている
原状回復の見積もりを作成するためには、契約書、特約、仕上表、図面を確認し、実際に現地を調査しなければならず、本来であれば手間と時間と知識が必要なものです。
しかし、見積もりを作成するビル管理会社指定業者には、一種の“甘え”があります。つまり、知識のない賃貸人を相手に見積もりを出すので、建築業界の慣例もあって、ざっくりとしたサバヨミの高めの見積もりでも分からないであろう、という考えです。分かっても他業者では請負うことができない賃貸契約になっています。
その証拠に、オフィス退去の際、指定業社は現地調査にきましたか?来ない会社が殆どです。
負担する必要のない損耗等まで含めてしまう、原状回復の範囲が不明確
壁紙や天井、床の一部が汚損していた場合、本来その部分だけを修繕すれば十分なのですが、全面張替え(全面新規交換)の見積もりが出てくることがあります。
これは、本来必要な部分的修繕に便乗して、すべて新しくしてしまおうというオーナー側の意図が透けて見えます。
また、「通常損耗」と呼ばれる、経年劣化経年変化によって発生した損耗等も、賃借人負担として見積もりが出てくることがあります。通常損耗に関しては契約内容にもよりますが、本来は貸主負担の領域です(原状回復特約で、「貼替」など明確に記されている賃貸借契約を除く)。
このように原状回復においては、賃借人が本来費用を負担する必要のない部分がいくつもあるのですが、見積もりに乗せられてしまって相場より高くなっているケースが多々あるのです。これはまさに原状回復の定義、「範囲工事内容の明文化」によりミエルカが可能です。
※賃借人が負担すべき範囲については、以下の記事を参考にしてください。
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原状回復工事は指定業者に限定する契約になっている
オフィスの賃貸契約書を見ると、ビルを退去する際の原状回復工事については、「ビルオーナーの指定工事業者に依頼しなければならない」という、賃借人に制約のある内容が記載されている場合がほとんどです。
つまり、指定業者の独占状態になってしまうため、競争原理が働かず相場よりも高額な見積もりがまかり通ってしまうことが多いというわけです。
以上のような理由から原状回復の見積もりは高額になりがちなのですが、たとえこうした理由が分かったとしても、知識がないと見積もりが適正かどうか見破るのはなかなか難しいものです。そこで頼りになるのが専門家のサポートです。
オフィスの原状回復費は適正価格で行おう!
原状回復費用の相場を知っておくことで、本来負担しなくてもよい費用が乗せられていることに気づくことができます。見積内容が分からないと、高いと思いつつ敷金(預託金)から差し引かれても指定業社だからと諦めて発注してしまうことでしょう。
原状回復の見積もりに対して違和感を持つことができれば、オフィスの原状回復費は大幅に削減できる可能性が大きいです。
今回紹介した原状回復費(坪単価)の相場と、原状回復費が高くなってしまう背景を把握しておくことで、「原状回復費のコストを削減する余地がある」ということに気づくことができ、オフィス退去にかかる費用の圧縮に一歩近づくことができるわけです。
オフィスを退去する際は、今一度、賃貸借契約書をよく読み、契約上何が義務となっているのか、指定業者がいるのかなどを把握しておきましょう。
そして、原状回復費が相場よりも高いのであれば、専門家に相談して賃貸人(指定業者)と交渉しましょう。
担当者の付け焼き刃な知識では、ある程度原状回復費用は安くなるかもしれませんが、大幅な削減は期待できません。 各分野の専門家がチームを組んで適切な対応をすることが大切なのです。
原状回復費用の適正発注をすることは、借主の正当な権利です。その為には、専門家チーム(宅建士・建築士・設備士)に依頼し、原状回復工事費適正査定で工事内容をミエルカ、明文化されているかどうかのエビデンス(証)が交渉の切り札となります。
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