我が国においてはオフィスを移転する際に原状回復工事が求められる。これは一般的な賃貸借契約書の常識ともいえる。しかし、その工事内容は賃借人にとって“ブラックボックス”に近く、適正価格とはいえない見積もりが横行しているのが現状である。
高額な原状回復工事の見積もりには、法的根拠のない費用負担が算定されていることもあり、トラブルに発展した例もある。今回の事例もトラブルにこそならなかったが、専門家から見れば理不尽なケースのひとつで、これは決して珍しいものではない。
賃借人の概要

クライアント | 株式会社コスパクリエーション |
テナント | 東京都新宿区 アリミノビル |
賃貸借面積 | 2階 957.77㎡/289.72坪 |
解約日 | 令和2年5月31日 |
賃貸人の概要
賃貸人 | Aビル株式会社 |
PM(賃貸経営管理業務) BM(ビル管理運営) | K建物総合管理株式会社 |
実績
初回見積金額(指定業者) | 17,100,000円 |
再見積 | 13,500,000円 |
合意金額 | 9,545,455円 |
削減額 | 7,554,545円 |
削減率 | 44.17% |
(税別)
見積内容と契約内容を照合し問題点を浮き彫りに
賃借人は、撮影スタジオ兼オフィスとして本事例のビルに入居していたが、退去することになり、解約通知書を賃貸人側へ提出した。ほどなくPM担当の管理会社より見積書が届く。その額1710万円であった。
原状回復やB工事は高額になりがち、という話は聞いていたが、想像していた以上に高額だった賃借人は驚き、本社移転時のプロジェクトマネージャーに相談。すると、原状回復コンサルティングを行っている株式会社スリーエー・コーポレーション(3AC)を紹介してくれた。
さっそく相談してみたところ、たちまち本件での問題点が指摘された。説明も分かりやすく、合理的だったためコンサルティングを依頼することになった。
3ACが指摘した問題点は以下の2点である。
床の新規貼替、壁・天井の全面塗装、新規ブラインド交換、空調設備の薬品洗浄等が見積もりに算定されていたが、これは契約書に記載のない工事であり、適正なものといえない。
賃貸借契約書の原状回復に関する項目には「賃借人は本貸室内に設置した間仕切り、その他の諸造造作設備等を撤去し、破損個所があるときは本貸室を原状に復して賃貸人に明け渡す」という記述しかなく、具体的な工事内容が不明瞭。
エビデンスに基づいた提案で驚きの削減額を実現
上記の問題点を賃貸人側へ伝え、「本件は賃借人が所有する造作、諸設備を撤去し、特別損耗を修繕・修復のうえ、クリーニングをすることで足りるのではないか」と提案。これを主張するにあたっては確たるエビデンスもあった。実際に原状回復に関する裁判で「天井、ブラインド新規交換、空調の薬品洗浄等は本来、ビル側の資産であり、ビル側で負担すべき工事である」との和解条件、指導がされている例があるのだ。
これを受け賃貸人側は見積額を約950万円に修正。なんとおよそ760万円もの減額が実現した。賃借人も納得できる価格となり、本件は円満合意が成立したのである。
コスパクリエーション社からいただいたコメント
RCAA協会の運営母体である株式会社スリーエー・コーポレーションに依頼してから現地調査、助言者として協議に参加していただきました。ビル側との面談、金額合意まで短期間で対応していただき、大変感謝しております。また、ここまで大幅に金額を減額していただき大変驚いております。
「賃貸借契約書に書かれていない工事を賃借人は費用負担しなくて良い」という、説得力のある論点を見つけてくださったおかげで、時間の無い中でも筋の通った主張を展開し、納得のいく金額まで削減することができました。
今回、御社に相談して、本当に良かったと思います。また今後オフィス移転をする際にはご相談させてください。この度は本当にありがとうございました。
株式会社コスパクリエーション 担当:神田氏
査定者の所見

多くの賃借人は賃貸借契約書を読んでもうまく理解できない。もちろん書かれたことを読むことはできる。しかし素人では見積書と照合しても問題があるのかどうか判断できないのだ。一部の悪質な業者はこれをいいことに適正とはいえない見積書を作成する。違和感を持った賃借人が指摘したとしても、百戦錬磨の彼らに丸め込まれてしまうだろう。
だから原状回復を専門としたコンサルタントが必要とされている。ただ、知識が中途半端では削減額も半端なものになるだろう。信頼できるコンサルタントへ依頼するには、豊富な実績を持っていることをひとつの目安にするとよい。そして実際に相談し、話を聞いて判断すれば万全である。
査定者 山田 貴人