高い原因は、照明器具全て最新LED照明に交換、これは原状回復なのか?
これは、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によるモートワーク導入のため、銀座歌舞伎座タワーにある本社の3フロアを解約することとなった企業が、高額な原状回復見積金額から大幅減額に成功した事例である。
賃借人の紹介・経緯
今回のご相談は、不動産賃貸業をデジタルシフトした株式会社MDI(2019年ビジョン・ファンドで有名な某グループ入りで話題)である。
テレワーク移行の影響で、本社を構える銀座の歌舞伎座タワーの4フロア中3フロアを解約することとなり、賃貸人指定業者より初回概算見積金額3億4,870万円、その後正式な見積金額2億9,700万円の見積が提出された。
株式会社MDIは入居時にショールーム、社員食堂に大幅な入居工事を実施したので、ある程度の原状回復費用は覚悟していたが、同時進行している他拠点の原状回復費用と比べ坪単価4倍とあまりにも高額なため、一般社団法人RCAA協会(原状回復・B工事アドバイザリー協会)ホームページへ問い合せ、協会会員の株式会社スリーエー・コーポレーション(3AC)にアドバイザーとして協議依頼した。
賃貸内容・原状回復削減結果 敷金返還は2億9,800万円
建物名 | 歌舞伎座タワー(中央区銀座) |
賃借人 | 株式会社MDI(クライアント) |
賃貸人 | B株式会社 |
指定業者 | S建設株式会社(スーパーゼネコン) |
賃貸借面積 | 7階8階9階【合計面積】3,725㎡/1127.34坪 |
敷金 | 4億9,826万4,000円 |
原状回復初回見積り | 3億4,870万円 |
適正査定額 | 2億2,000万〜2億4,200万円 |
再見積り | 2億9,700万円 |
合意金額 | 2億0,031万円 |
削減額 | 1億4,839万円 |
削減率 | 42.6% |
敷金返還額 | 2億9,795万4,000円 |
(全て総額表示)
交渉のポイント
- 賃貸借契約書の原状回復条項が賃貸人優位の縛りの厳しい内容 (賃貸借契約書一部抜粋「原状回復義務履行の完了は賃貸人のみの判断に依るものとし、賃借人は一切の異議を述べられない」)
- 廃番になった照明器具を環境対応のLED仕様に全て新規交換、これってテナント負担? 賃借人の資産である造作、その他設備の解体工事は縛りのキツイ賃貸借契約により賃貸人側指定業者で実施しないといけないのか?
- 賃借人資産の解体撤去をC工事で実施、照明器具の全面交換をリニューアルキット工法にて変更し大幅減額。
本件の概要(担当者解説)
本件は、賃貸借契約書に記されている原状回復内容が賃貸人に極めて優位な契約書でした。しかし、建築知識のある甲が直接交渉し、自社資産(パーテーション等の造作物)の解体、撤去を自社推薦業者にて実施することに成功しました。
指定業者は金額の競争原理が働かず高額になります。しかし賃借人で手配した業者で工事可能な箇所があれば大幅な減額が可能です。その際、賃貸人資産に触れる躯体部分に影響が出ないように指定業者、賃借人推薦業者で工事区分の綿密な擦り合わせ、スケジュール調整をする必要があります。(守備範囲の確立)
問題点と対応
指定業者作成の見積は、全面交換する照明器具の品番が、原状回復基準に記載されている品番(現在廃盤)ではなく、最新環境対応のLED対応照明器具になっていました。
「原状回復基準に記載されている照明に戻すのであれば当然費用負担は賃借人がするべきだが、最新の環境対応照明器具にする場合に賃借人が全額費用負担しないといけないのか?」
賃貸人承諾のもと、賃貸人・賃借人・指定業者・3ACで協議しました。上記については、メーカーと相談したところベース部分は現在の設備のまま、リニューアルキットにて改修するという回答を得て原状回復費用を大幅減額できました。
しかし、「早急に金額を確定しないと、C工事前に実施しなければならない先行B工事が行えない」と賃貸人と指定業者は圧力をかけてきました。
賃借人の代理人弁護士より先行工事のみ発注の旨を何度伝えても指定業者からの返答がなく、賃貸人に上記を通知したところ、渋々承諾しました。
その後、3ACにて原状回復義務を逸脱した工事費用箇所を抽出し、弁護士より主張を通知したところ、最終的に148,390,000万円の大幅減額にて合意することで決着となりました。
※リニューアルキット・・・照明設備を改造する機器
クライアントからいただいたコメント
当社は建築の知識があり、工事単価はある程度把握しているので、今回、S建設の見積が高額なのはわかっていました。しかし、どのような方法で減額すればよいのかわからずお手上げでした。しかし、スリーエー・コーポレーションが借地借家法、建築基準法、ビル管法の観点から争点を明確にし、弁護士先生が法的根拠を基に正当な権利を主張していただくことで大幅減額できました。 この度は誠に感謝しております。 また、全国のワークプレイス見直しを実施中です。東京以外の原状回復アドバイザーも是非お願いします。
(株式会社MDI 特建事業本部 部長 布川 隆司 様 )
専門家コメント
萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)
一般社団法人RCAA協会 理事兼事務局長
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO
- ワークプレイスストラテジスト
- ファシリティプロジェクトマネージャー
賃貸借契約書の原状回復条項が賃貸人優位の縛りの厳しい内容において、「原状回復義務履行の完了は賃貸人のみの判断に依るものとし、賃借人は一切の異議を述べられない。」(一部抜粋)
このような条項が契約自由の原則とはいえ、どこまで裁判で認められるか?これは賃貸人の公正な取引において大きな疑問である。
廃番になった照明器具を環境対応のLED仕様に全て新規交換。
これは原状回復という名称を借りた賃貸人都合によるグレードアップ工事であり、テナントの負担にするのはおかしい。
賃借人の資産である造作、その他設備の解体工事は縛りのキツイ賃貸借契約により賃貸人側指定業者で実施しないといけないのか?
賃借人資産の解体撤去をC工事で実施、照明器具の全面交換をリニューアルキット工法に変更し大幅減額となった。上記は賃借人の正当な権利の主張であり、安易に賃貸人の要望で承諾することは賃借人の損害金を大きくする行為である。
山田 貴人(Takahito Yamada)
一般社団法人RCAA協会会員
株式会社スリーエー・コーポレーション
- 原状回復・B工事査定員
- リサーチャー
- DX(デジタルトランスフォーメーション)担当
本件は明らかに賃貸人に有利な賃貸借契約であり、恐らく今まで入居していたテナントも退去時に高額な原状回復費用を請求されてきたのではないかと推測すると恐ろしい。
スムーズにトラブルなくオフィス移転するためには、賃借人は入居時に賃貸借契約書の内容を理解し、入居後、もしくは退去時に賃借人に不利な内容が記載されていないか、または曖昧な表現がないか、あらかじめ専門家に相談し、賃貸人と契約内容の話し合いをしておく必要がある。
今回のような見積を当たり前のように提示してくる賃貸人側の対応には、専門家としては疑問を感じる。また、契約書に記載のない賃貸人都合による工事を賃借人に全額負担させる事は、大問題である。
だからこそ賃貸人側から見積が提示された際に、賃借人は数量、原状回復範囲に加え、交換する機器が原状と異なる品番かどうかも確認する必要がある。
建築知識のある賃借人は原状回復工事の単価を把握しており、今回の高額な工事費用に当初から疑問を感じていた。
当然、自社の工事部門にて工事ができれば費用も安価に抑えられる。指定業者はあるが、賃借人資産の解体・撤去は自社でできるのではないか?と考えた。
賃借人は上記内容を賃貸人に主張し、一部工事を自社にて実施すること。そして、照明器具を環境対応のLED仕様に全交換する工事は、リニューアルキットでの修理工事に変更することで原状回復費用を大幅減額に成功した。
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